「片耳の男」「動かぬ時計」(横溝正史)

子どもたちへの思いが滲み出ているような作品

「片耳の男」「動かぬ時計」(横溝正史)
(「迷宮の扉」)角川文庫

「片耳の男」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
  コレクション④青髪鬼」)柏書房

「動かぬ時計」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
  コレクション⑤百蠟仮面」)柏書房

帰宅途中に片耳の男から襲われた
少女・由美子。
医学生・慎介が家まで送ると、
そこには由美子の兄が
縛られて倒れていた。
片耳の男が狙っているのは
毎年八月十七日に
兄妹に届けられる
「贈り物」らしい。
今年はそれが謎の手紙だった…。
「片耳の男」

中学を出てすぐに働き始めた
眉子のもとに、
毎年五月十五日に
届けられる「贈り物」。
今年届いた金の時計が
ある日止まる。
眉子が裏蓋を開けてみると
そこには見知らぬ婦人の
写真が貼り付けてあった。
眉子はこの女性が
贈り主と考え…。
「動かぬ時計」

横溝正史ジュヴナイル短篇二篇です。
金田一耕助が活躍するジュヴナイル
「迷宮の扉」に併録されている二篇です。
怪獣男爵や百蠟仮面、
金田一耕助といった
名物悪役や名探偵が登場するわけでは
ありませんが、
それぞれ味わい深い短篇です。

二篇に共通しているのは、
主人公が14歳の少女、家が貧しく、
中卒で働いている
けなげな女の子であるということ、
そして毎年決まった日に
「贈り物」が届くということなのです。
この「贈り物」の謎が
読みどころでしょう。

「片耳の男」では、
この年の「贈り物」は手紙でした。
贈り主からは
「会いに来てほしい」というメッセージと
「片耳の男に気をつけろ」という助言が
書かれてあったのです。
贈り主の老人の死の謎と財宝のありか、
そして片耳の男の拘束と、
医大生の宇佐美慎介が大活躍し、
ロマンチックな終幕となります。

一方、「動かぬ時計」もまた、
贈り主は誰かという謎解きが
読みどころです。
事実は伏せられたままで
終わるのですが、
こちらも悲しくも
ロマンチックな終末です。

なぜロマンチックか?
書かれていない物語を
想像できるからなのです。

「片耳の男」では、
由美子が幸せに暮らしたことが
書かれていますが、
その「幸せ」とは
財産を得たことだけでなく、
慎介という友人を得たことであるのは
容易に想像できます。
本作品は1950年に雑誌
「少女サロン」にて発表されています。
当時の少女読者は
さぞかしロマンチックな想像を
巡らしたのではないかと思われます。

「動かぬ時計」では、
「贈り主」がどんな人物なのか、
眉子とどんな関係なのか、
どんな事情があったのか、
一切が読者の想像に委ねられています。
こちらは1928年(以前)「少年画報」掲載。
読み手の子どもたちはいろいろな想像を
膨らませたはずです。

すべてを語らず
読み手の想像力で作品世界を
より立体的で広がりのあるものにする。
横溝の子どもたちへの思いが
滲み出ているような両作品です。

(2020.8.9)

congerdesignによるPixabayからの画像
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